【嘆くなり我が夜の幻想】 YU-GI-OH×BAKURA |
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<Chapter 5 レクイエムは魔性の天使の歌声で> …その晩、何度目になるかもうわからないが、遊戯とバクラは未だ裏路地に創り出された即興の密室で行為を続けていた。確かなことは不明だが、身体を重ねた回数は二桁に入った筈だ。 始めは頑なに抵抗を続けていたバクラだったが、何度目かの性交の後ぱったりと抵抗を止め、なんの心境の変化か、逆に積極的に遊戯を受け入れるようになっていた。 今も遊戯の股間に顔を埋めて、情欲に浮かされた顔で懸命に奉仕していた。 「…しかし、慣れたもんだな、お前も。始めの頃なんて死にそうな声出して泣いてたくせにさ…」 掠れた声で言いながら、バクラの髪をなでる。バクラはゆるゆると顔を上げ、きつい眼差しを遊戯に向けた。 「…だれが泣いたって…? バーカ、ありゃ鼻水だってーの」 唾液だか精液だかわからない粘液でぬめる唇を手の甲でぬぐう。 遊戯の性器は、溜まっていたとはいえ十数回も射精したのだから、いい加減反応が鈍ってきていた。 城之内あたりが用いそうな下手な言い訳に、遊戯は懐疑的に首をひねる。 「目から鼻水がでるもんなのか…?」 「しつこいなーーテメーはよー。鼻から牛乳が出るんなら目から鼻水出るくらい大した問題じゃねえだろ」 「いや、問題はそこじゃない気が…」 「テメエだって口からザーメン出てるじゃねえか。オレ様の目から鼻水が出て何の疑問よ?」 「出てるわけじゃないって。あー畜生…可愛くねえんだから、本当に…」 憮然と文句を溢されたが、無視して行為の続きに戻る。 今はべとべとのバクラの口は、ひっきりなしに口汚い罵詈雑言が飛び出すのが難点だが、それでもその舌使いを含めた技巧は中々のものだし、身体の相性も悪くないので、多少の悪口には目をつぶることにしてため息をつく。 「…もう出ねえかなー…。王サマ枯れた?」 立ちあがったものを扱きながら問い掛けられて、失礼な内容に腹は立ったが、事実は事実らしいのでバクラの手を外させて抱き寄せる。 ほつれた髪に顔を寄せたら、すでにどっちのものなのか解らないくらいの精の匂いがした。 「ま、オレだって無尽蔵って訳じゃないからな…。お前なんかとっくに立たないだろうが」 「すんませんねーー、オレ様ビギナーだからー、今日初めて知ったんだぜ、この身体が使いものになるってコト」 「そりゃ、よかったな」 力の抜けきった腰を抱え上げて、足を押し広げたら白い内股を粘液が流れ落ちる。 自分が流したのか相手が吐き出したのか判別不能だが、しつこく溢れる精液は大量すぎて現実感がない。 ミルクカートンでもぶちまけたみたいだと、半分麻痺した脚を膝まで伝う白濁を見て他人事のようにバクラは思った。 「…そろそろ、頃合か…」 呆けた夢見心地の脳に思い描いた復讐プロジェクト。 ろれつの回らない舌で呟いたら、遊戯が訝しげに顔を上げてくる。 コイツとのセックスは悪くはねえけど、だからといって仕返しを忘れるほど溺れちゃいない。 始めに言ったはずだ。 …目には目を、歯には歯を…。 テメエは許さない。 「な、王サマ…まだやる気ィ? オレ様もう腹ン中ガボガボなんだけど…」 「別に動けとか無理は言わねえよ。腹痛いなら寝てて構わないぜ」 「いや、そうじゃなくてよー…」 「何だ?」 遊戯の視線と真正面でぶつかった。 機は熟したとばかりに、とっておきの微笑の爆弾を投げ付けて、口を開く。 千載一遇のタイミングに放つのは、一撃必殺のキーワード。 遊戯がどう反応を返すか、思い描いただけで口元が緩んだ。 「海馬」 「………」 「社長ん家行くって言ってなかった?テメェ、大分前に」 「…………」 目に見えてはっきりと遊戯のあらゆる動きが静止した。 瞬間冷凍されたように固まった遊戯の腹を、こんこんと叩く。 「おーい? 王サマ? 死ぬ前に死後硬直か?気ィ早えなー」 「……」 「全身海綿体?」 「……」 「おーい…」 「うわあああああああ!!!」 …リビングデッドの呼び声。 遊戯は目を見開いて天を向き、断末魔の悲鳴も及ばない咆哮をあげた。 衝撃でバクラが耳を押えたまま後ろに転がる。 「…ぺっ、汚ねえなあ〜、唾飛んだじゃねえか」 ぶつぶつ文句を言いながら起きあがるが、遊戯はバクラに目もくれず、超高速でボンデージシャツを着込んでいく。 見る見る間に辺りを覆っていた闇が消え失せ、バクラの耳に遠くで響くパトカーのサイレンが届いた。 バクラは心底嬉しそうに、とりあえず自分も投げ出された服を引き寄せる。 遊戯は無意味にベルトの多い服に苦戦しているようだが、上着はそこそこにしてレザーに足を通した。 「…そんなに慌ててるとチャックにはさまれるぜ王サマ―?」 イヒヒと笑いながらからかってくるバクラを睨み付け、勃起したままの一物を無理矢理押し込むと、もう後ろも見ないで駆け出した。 腕のベルトがかけ違いで、顔面といわず髪といわず精液まみれの凄まじい風体の後ろ姿を見送った後、時計に目を落とす。 針は夜中の一時を回ったところ。 他人の家を訪問するには非常識すぎる時刻だが、夜這いならばギリギリ許容範囲といったところか。 エナメル革の靴が片方置きっぱなしだが、あんなシンデレラを嫁にする気はさらさらないし、第一腰が抜けてて走れたものではない。 「…おっ立てたまんまでよく走れるねェ、さすが王サマ。」 二割の感心、一割の尊敬を交えて、残った七割で心の底から馬鹿にした声でつぶやいた。 壁に手をつき、よろよろと立ちあがる。 ほとんど腰が抜けてしまっているのでヨッパライのような歩みしか出来ないが、とりあえずその辺に落ちていた古着で身体をぬぐって、往来を歩いても不審でないくらいの体裁は整えた。 洋服の山に埋もれた千年リングを発掘していたら、ついでに遊戯が置き忘れた紙袋が目に入った。 「ん?そういや中身何だコレ…」 乱暴に包みを破いて、中身を取出す。 二十センチ足らずの細長い棒状で、コードからスイッチが繋がっていて…。 「…へえ…これが”電動アドベンチャー”…。王サマの装備品かぁ?」 ボンデージの鎧に電動玩具の剣。アクセサリーにゴム数個と回復アイテムの赤マムシポーションを詰め込んで。 すわ勇者は、お城に眠れる青き瞳の姫君を襲いに行きましたとさ…。 グリップを逆手に握ってみると、確かに短剣のように突き立てるのに適した形状をしている。 もっとも、急所を突き刺すという点では短剣と同様だが、その目的は殺害ではない。 「……使われなくてよかったァ…」 しみじみと安堵の息を吐き出して、有機的形態が生々しいソレを放り投げようとして、ふと動きが止まる。 地面に転がるのは、遊戯の黒い革靴と、体液でグショグショの布切れ。 手の中にはよからぬ玩具。 「……あの野郎、二個も忘れモン置いてきやがって…。ん〜〜、やっぱ届けてやるべきか?届けてやるかなー、何しろ今オレサマはとーっても機嫌がいいわけだしなーー。それもこれもアイツのせい…おっと、おかげだしなーー。うん、ここからなら海馬ん家はそんなに遠くねえはずだし…よし、届けてやるか!」 明るく結論を下すと、足元に転がる粘液で汚れた布でそれを包み、靴もろともビニールの手提げに突っ込む。 自分の荷物も忘れずに持って、バクラはすっかり生臭くなった裏路地を後にした。 「…ククク、王サマの顔が目に浮かぶぜェ…」 ヒトに為に何かするのは気持ちいいぜ〜などと白々しく戯言を並べながら、盗賊は力の入らない下半身に鞭打って、勇者を追い姫の住まう城を目指す。 そこに待ちうけている最高のクライマックスを夢想しながら…。 どうにかこうにか波瀾の旅を終え、最終目的地である海馬邸に辿りついた遊戯は瀕死の体でラスボス攻略に臨んでいた。 ラストダンジョンに行きつくまでにあまりに時間をかけすぎたせいで、お城で待っているはずだった姫君は、待ちくたびれて魔王に変身してしまっていたのだから…。 「…なあ、海馬ぁ…。悪かったって、本当…」 すがるような目で海馬を見つめると、興味なさげに鼻で笑われた。 腕組み足組み、ついでにとっておきのあおり角度で、虫けらでも見るような目つきで見下される。 長い前髪が秀眉に影を落とし、あまりに恐ろしいその迫力に直視出来ない。 まともに見つめたら視線だけで射殺されそうだ。 「…ほう…。悪かった、か。…己の非を認めて許しを請うというなら、この海馬瀬人、聞き入れてやらんこともないが…。ならば説明してもらおうか? 貴様は昨日の夕方、オレに十時までには訪問するとの連絡をよこしたはずだろう?」 「……そ、それは…」 「こちらの予定も聞かず、一方的に言うだけ言って電話を切り、あまつさえ日付が変わってから我が家に侵入し…」 「…う…」 「防犯ベルを鳴らしまくって、警備員共に無駄働きをさせ、あまつさえ、すでに就寝していたモクバまで目覚めさせ…」 「……ううっ…」 「…見るに耐えぬその薄汚い有様で今正にこのオレの眼前に無様な醜態を晒すに至った経緯を是非とも説明してもらいたいものなのだが?」 「………ううう、…そ、それは、だな…海馬…」 「なんだ」 言いよどむ遊戯に、海馬の追撃が一拍の猶予も無く浴びせられる。 蛇に睨まれた蛙の気分を、遊戯は嫌と言うほど実感していた。 見るからに小さく縮こまった遊戯をしばらく睨み付けていたが、ふ、と息をついて海馬は視線をそらす。 路地裏に捨てられて震える子犬のような目で見つめられて居心地が悪い。 海馬は実は…子供と動物に、弱い…。 「…まったく…、大体なんだそのみっともない服装は…。背広ネクタイで訪問しろとは言わんが、せめて洗濯された衣服を身につけたらどうだ? どこのホームレスだ貴様」 「…面目ない」 「それに服の着方が間違っているではないか。そんな無駄な備品がジャラジャラ付いた物など着ているからそういうことになるのだ」 「…ご指摘ごもっともです」 「そして靴は両足に履くものだ」 「…はい」 いつも余裕綽綽で自分を翻弄してくる遊戯の変わり果てた惨状に、もうため息も出ない。 しゅんとした遊戯の態度にいたく優越感を満足させ、海馬は少しだけ眼光を緩めて説教を続けた。 「…そんなナリでオレの目の前にいられては目障りだ」 「海馬…」 最後通告を下される罪人が裁判官にすがるように、遊戯は顔を上げて海馬を見上げた。 海馬は痛切な視線を振り払うように顔をそらす。 しかし、その口から出てきた言葉は思いがけないもので。 「…シャワーくらい貸してやる。話はその後だ」 「か…海馬っ」 遊戯の顔にぱあっと希望が満ち、今にも喜びのあまり海馬に抱きつきそうな雰囲気だったが、慌てて直前に指を指して制止させ声高に宣言する。 「いいか!勘違いするな!オレは貴様がどんな風体でも別に構わんが、そんな格好でうろつかれては部屋が汚れるからだ!解ったらとっととそのボロ雑巾をごみ箱に捨てて体を清潔に洗い清めてこい!!その薄汚れた格好でこの海馬瀬人に触れる事は断じて許さん!!いいな!」 立て続けにわめく海馬の頬はほんのりと紅に染まっていて。 何て言うか…こういうところがあるから、海馬は可愛い。 遊戯は嬉しさにすぐさま押し倒したい欲求が込み上げてきたが、ぐっと堪えて海馬の言うとおりに先にシャワーを浴びることにした。 「じゃ、すぐあがるから! 待っててくれよな!」 「十五分だ。一分一秒でも遅れたらその場で退去してもらうからな。…こら!その雑巾を床に置くんじゃない!ゴミ箱に捨てろと言っただろう!」 「お、おう…っ」 無茶苦茶に着込んだ黒のボンデージシャツを脱ぎ捨てようとしたら、すかさず海馬の潔癖チェックが入り、遊戯はわたわたと部屋の隅のごみ箱に向かう。 やれやれとため息をついた海馬だったが、遊戯の素肌の背中を目にした途端、ピクリと眉が上がった。 何かその裸の背に赤い筋が幾つもついているように見える。 あれは…引っ掻き傷? 「…おい、遊戯…」 「な、何だ?」 「ちょっとこっちへ来い」 豹変した海馬の態度に怯えつつ、言われるままに近寄ると、海馬の青眼が大きく見開かれ、顔が引き攣ったように歪む。 その視線はまっすぐに、遊戯の身体を凝視していた。 「………何だソレは…」 「え? 何って………うげえーーーーーーー!?!?」 海馬の視線をたどって自らの裸の胸を見つめてみれば、いつのまにつけられたのか無数の鬱血の跡。 よくよく体中を見渡すと、腹と言わず腕と言わず、情交の痕跡が散らばっていて。 右肩に残るひときわ大きな跡…これは歯型だ。 「…ク…ククク…」 地獄の底から沸きあがるような、低く地を這うような含み笑いに、身体観察を切り上げ顔を上げる。 …海馬が笑っていた。 いや、笑い声に気が付いて顔を向けたのだから笑っているのは当然なのだが、遊戯はいまだかつて、このような顔で笑う海馬瀬人を見たことは無かった。 青眼の白龍に滅びのバーストストリームを命ずる時の、ゆうに数倍は楽しげな笑顔。 今日の夕方(否、すでに昨日か)、バクラのニコニコスマイルを向けられたときもかなりの戦慄を覚えたが、海馬のニコニコの威力はそれどころではない。 少なくともあの時は、謝るくらいは出来た。 今は………声が出ない……。 「……遊戯」 「……………はい」 「…反論は無用だ。言い訳など聞かん。オレには全てわかっている……」 必死の思いでようやく攻略した魔王は、魔神にバージョンアップしてしまったようだ。 一度攻略したラスボスがすぐさまバージョンアップして復活し、連戦になるのはゲームのお約束だが、まさか海馬がそういう人種と同類項だったとは思わなかった。‥‥いや、うすうす勘付いてはいたかもしれないが。 できれば、知りたくなかったし、まさかこの身で味わうなどとは…。 ”浮気を彼女に糾弾される彼氏” 夕方、裏通りで浴びせられた時は見当外れの名誉毀損だったが、今遊戯は正にその立場に立たされていた。 「…殺す前にこれだけは聞いておこうか……。相手は誰だ」 裁判抜きで死刑宣告を下されて、遊戯の顔色はもう紙のようだ。汗すら出ない。 海馬の今腰掛けているデスクの引き出し、取出しやすい最上段。 そこに弾丸装填済みのオートマティクが入っていることを、遊戯はかつて身を持って知っている…。 「五秒だ。一秒遅れたら脳天を打ち抜く。二秒待ったら八つ裂きだ」 遊戯の口が、恐る恐るア行の形に開くが、掠れて声が出ない。 「…5」 海馬の無慈悲なカウントダウンが始まった。 「4」 「…ば…」 「3…」 「か、海…」 「2。…誰がバカだと…?」 海馬の手が無骨な銀色の短銃を掴み出す。 重い音を立てて安全装置が外され、遊戯の眉間に精密に狙いが定められた。 「‥‥では死ね」 海馬は柔らかな微笑を浮かべ、どこかうっとりとつぶやいた。 この至近距離。…どこにも逃げ場所など無い…。 「お〜〜い、遊戯――! もういるのかあーー??」 「!!!」 海馬が引き金にかけた指に力を込めようとした瞬間。 ベランダに続く大きなガラス窓が、バタンとやかましく開かれた。 まさかこの空間に第三者が乱入してくるとは思ってもいなかった海馬と遊戯は、二人そろって瞬間的にそちらを向く。 ‥‥そこにヘラヘラと突っ立っていたのは、遊戯の死刑判決の当の元凶であり、今の状況では救いの神でもある、海馬がどうにか遊戯から聞き出そうとした人物‥‥バクラ。 「お? 何か面白そうなことしてんじゃねえか〜。何?磯野家仁義?波平とカツオごっこ?」 「どこの世界に息子に銃をつきつける波平がいるか馬鹿者…」 「おわ! びっくりした〜、社長サザエさん通じんのォ〜〜??」 「フン、昔モクバがよく見ていたからな…。オレは一度見たものは忘れん」 「ふえ〜〜意外〜〜。じゃあカツオの声優は?」 「……高橋和枝」 「ブブー!富永みーなでしたーー!」 「くっ、何があったカツオ…」 突如乱入してきたバクラのおかげで、先程までこの部屋を支配していたピリピリした殺気は、開け放たれた窓から流れ出てしまったようだ。 呆然と座り込んだ遊戯は急な展開についていけず口をぽかんとあけたままだったが、命拾いしたことに気づき、ズルズルと脱力した。 「どうしたよ王サマ〜、腰抜かしてよォ。何、絶頂入った?」 「…は、はは…。助かった…」 へたれこんだ遊戯の前にしゃがみ込み、非常に撫でにくい頭をナデナデする。 すっかり覇気の抜けた海馬は、銃をごとんとデスクに置き、異常髪型の二人を見下ろした。 「……ふん、殺る気も失せたわ、下手物共め…」 「えッ、犯るの!?社長が!? うへえ〜これまた意外〜。やめとけよ社長〜、社長のミリキは童貞だけど処女じゃねえトコなんだからさ〜〜」 「ぶっ!貴様!何を根拠にそんなことを…っ!ええい!誰に聞いた!貴様か遊戯!!」 「…アレ、本当デスか!」 「………!!! …キ、キ……」 「キイイイイイ??」 「貴様――――――――!!!」 「ぎゃあ〜!」 怒りの臨界点をブチ切った海馬は、逃げようとするバクラの後襟を捕えて引き倒す。 転ばされた拍子に、バクラが下げていた手提げが床に落ち、中身がごろごろと転がり出す。 「…なんだそれは…」 「あいてて…。全く乱暴な社長さんなんだからよ…」 汚れた布を足先で広げて見れば、包まれているものは例の反倫理的玩具で…。 表向きは子供達に夢を与える仕事を天職にしている海馬としては、そんなものの存在は断じて許せない。 「っ!!! 貴様!そんな汚らわしいものをオレの部屋に持ち込むな!!とっとと持って出て行け!!」 「いた、痛いって!殴るなって!! 違うもん、オレのじゃねえもん!遊戯が忘れてったから届けに来たんだもん!オレ様よいこだからそんなん使わねえもん!!」 「…なんだと…、おい遊戯…。ん!? あいつどこに消えた!?」 広い部屋を見渡すが、どこにも遊戯の印象深い派手な姿は無い。 海馬の意識がバクラに移っている内に命からがら逃げ出してしまったようだ。 「あんまり社長さんが怖えから逃げちまったよ、とっくに。…てゆーかーー、社長ソレがなんだかわかるんだ!? すっげえ〜〜、物知り〜〜」 「うっ…!うるさいッ!大体なんなんだ貴様ら!次から次へとオレの屋敷に薄汚い格好で…、っ!!貴様…まさか遊戯と…」 「ヒャッハ!ピンポ〜〜〜ン! だってェ〜〜社長がいけねえんだぜ〜〜。あんまり遊戯ほっとくから〜〜、あいつ性欲持て余してあげくオレ様に手ェ出してきやがったんだからァ〜〜」 「語尾を伸ばすなああ!!」 「ジジイかテメェはよ。…ま、そんな訳で、アイツのザーメン一滴残らず吸い出しちまったから、今頃キンタマ干からびてンじゃねえの? ぜってえもう勃たねえし。今アイツ一時的インポ君だと思うぜェ〜」 「下品な単語も吐くなあ!!」 「…テメェみたいなしゃべり方しろってかァ? そんなことしたらパンピーに言葉通じねえじゃん」 「やっかましーーーーーー!!」 海馬は顔を真っ赤にして、鬼のような形相でわめき散らした。 バクラは何処吹く風だが、海馬の手が置きっぱなしの短銃にのびたのを見て飛び退った。 「…死ぬか、生きるか…」 「ハムレット?」 「それだけが問題だ…」 「おわあ! 花火と銃口は日本では人に向けちゃいけねえんだぜ!!」 「フン、銃口と悪意は人に向ける意外、他にどんな使い道があると…?」 「え、そりゃ、タヌキを鉄砲で撃ってさ、煮てさ、焼いてさ、食ってさ……、わ、待て待て! 生きる行きますってば! じゃーーなっ!!遊戯が帰って来たらソレ渡しといてくれよな!愛してるぜ――社長っ!ラブユー!!」 蹴鞠歌を口ずさみながら、来た時と同じようにバクラは窓からひょいっと去っていった。 警報に全く引っかからずに一番厳重なはずの海馬の私室に入り込むとは、屋敷内のセキュリティシステムの再検討の必要性を感じる。 早速明日にでも兵器屋に相談しようと考えつつ、銃を元の場所に戻そうとした時、 自分以外誰もいなくなった筈の室内に、人の気配を感じ、五感を研ぎ澄まして気配を探った。 目星をつけた方向に向かい、静かに口を開く。 「…遊戯、隠れていないで出てこい。そこにいるのはわかっている」 「………おう」 分厚いカーテンと窓の隙間。その狭い空間に遊戯は体を押し込むように隠れていた。 バクラが遊戯はもう帰ったと言ったのも、窓の方に消えたからだったのだろう。 引き出しを閉じ、海馬は遊戯を指先で招き寄せる。 油断させてズドンという策謀がないことを願って、遊戯はそろそろと近づいた。 海馬は大きなクローゼットをあけ、真っ白のシャツを取出すと、遊戯に向かって放り投げる。 なめらかですべすべとした手触り…、絹だ。 「ソイツをやる。いつまでもその見苦しい身体を晒してないでとっとと着てしまえ」 「あ、あぁ…悪いな」 「…着たら早急に帰るがいい。オレはもう寝る」 「えっ! だって、やっとアイツも帰ったわけだし‥‥」 「…二人きりになったから?」 「そ、そうだぜ、一週間ぶりにやっとお前に会えたんだし…その…」 「七日振りの逢瀬を重ねたいと?」 「…ああ、まあ…」 ごにょごにょと言いよどむ遊戯に、海馬はふっと、幼子に向けるような笑みを零す。 憐れみすら感じさせる笑みを遊戯に向けたまま、海馬は頭を振る。…横に。 「…生憎だが、精魂枯れ果てた不能を相手にする気はない。無理はするなよ、遊戯」 とどめの同情的ないたわりに、遊戯の精神力が瀕死のダメージを受けた。 恐怖の魔神の最終攻撃は、慈愛の天使の憐憫の眼差し…。 「ちょ、ちょっと待てよ海馬! バクラの言ったコトなんて嘘だから! 全然ビンビンだって!!」 「虚勢を張ることもなかろう。…そうか、もう自身が使いものにならないから、こんな物まで買ってきたのか…。哀れだな、遊戯…」 「ゲッ!なんでそれがここにっ!?あっ!アイツの仕業だな!あっ、おい、海馬!信じるなよバクラの戯言なんて!うわああ!!そんな目でオレを見るなあああ!!!」 …その後、半分狂態のままに、不能の汚名を晴らさんと半ば無理矢理海馬とベッドにもつれ込んだ遊戯だったが、念入りに子種を搾り取られた息子は、なだめてもすかしてもおどしても全くの無反応で、散々海馬に馬鹿にされた挙句、屋敷から追い出される寸前、「たとえ男として不完全でも、決闘者としての価値が下がるわけではないから安心しろ。貴様はオレが認めた誇り高き決闘者だ。…強く生きろよ」と、励ましの言葉まで頂戴してしまった。 人生万事塞翁が馬。 ライフポイントはほぼゼロ、精神エネルギーはマイナス地点で、魔性の天使に賜ったサイズのあわない全く似合わない絹のシャツを着て、フラフラと家路を辿りながら、勇者は思う。 薬屋の前に立ちつくしていたバクラを役立たずとからかったのは、もういつのことだったか…。 この悪夢のような夜が、どうか一夜の幻想でありますようにと願うが、それは叶わぬ望みで。 …翌日の黄昏時、例の薬局の前には夢も望みも無くして立ち尽くす遊戯の姿があったという……。 <The End> |
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