【嘆くなり我が夜の幻想】
YU-GI-OH×BAKURA
<Chapter 4 憂いのナイフでひと思いに>


「…おいコラ…」
 解放後の脱力に身を任せ遊戯にもたれ掛かっていたバクラだが、無遠慮な手の平が下着を引き下げにかかった時、ようやく口を開いた。
「ん?」
 返事は返すが手の動きは止めない。バクラは慌てて身を引いたが、それこそ遊戯の思う壺で、そのまま地に転がされた。
 天地の逆転に目を回した隙に、もろともに下半身を剥かれる。
「ぎゃあ!」
 服を取り返そうと手を伸ばしたが、届かない位置に投げ捨てられ唇を噛む。遊戯は晒し者にされた素足を片方持ち上げ、小さく嘆息した。
「うわ、白い足…」
「テ、テッメ! 何しやがる、離せ!」
「クク…罰ゲームの時間だぜ? …なあに、大人しくしてればそんなに酷くはしないからよ…」
「大人しくしてたらヤられちまうだろうがぁ!」
 ドゴ!
「おわぁ!?」
 掴まれたままの左足で遊戯の顔を蹴り上げ、遊戯が怯んだ所でその辺に落ちていた黒いシャツで股間を隠しつつ後ずさる。
 遊戯は蹴られた頬に手を当てうつむいていたが、ゆらりと顔を上げ、あわてる素振りも無く、逃げたバクラに視線を移した。
「…お前、逃げるのはともかく、その格好でどこに行こうってんだよ?」
 遊戯はニヤリと笑いつつ手をのばしてバクラのジーンズを引き寄せる。バクラが悔しそうに歯噛みするのが離れていても聞こえた。
「返せ!」
「…じゃあ取りに来いよ。ま、お前がどうしても逃げるっていうならそこまでして追おうとは思わないから逃げれば? 千年リングもズボンも無しで往来に飛び出すなら、ソレはソレで見物だしな」
「うっ…」
 そういえば千年リングも奪われたままだった。たとえズボンが無くてもアイテムさえあればそこらのチンピラでも襲って追い剥ぎすれば足りるのだが、アイテム無しでは下半身丸出しのみっともない出で立ちで肉弾戦を挑まねばならない。変質者の汚名をこうむるのは必定だ。
「…あーあ、お前が女の子だったら暴漢に襲われたーって言えば同情してもらえるだろうけど、肝心の下半身がソレじゃあ女の子のフリって訳にもいかないもんなあ。大変だなあ、頑張って逃げろよ、警察から」
「うう…」
 まるで心を見透かしたような遊戯の心無い励ましに、返す言葉もない。
 何が何でも千年リングだけは奪還せねばならないが、折角逃げおおせたのに、また遊戯の側に近づくのは好ましくない。
 ジレンマに悩まされているバクラに、遊戯は低い声で呟いた。
「逃げないのか?」
「…逃げてぇけどな」
 歯切れの悪い返答を漏らし、バクラはウーと唸って遊戯を睨め付ける。
 子猫をからかう様な気持ちでジーンズを軽く振ってみたが、唸るだけで近づいては来ない。
 随分と嫌われてしまったものだと遊戯は真心のこもらぬ反省をため息にのせた。

 逃げた猫は警戒心剥き出しで獲物との距離を測っている。
 薄暗くて薄汚い裏路地に、白い髪と白い足。そこだけが霧のようにぼうっと浮かんで見える。腰に巻きつけた黒いシャツがスカートみたいで笑えた。
「…ソレ、ミニスカートみたいだな」
「!」
 思わず口から洩れた感想に、バクラの顔が真っ赤に染まる。一瞬シャツを引き剥がしかけ、その下が素っ裸なことを思い出したのか動きが止まった。
「あはははは」
「笑うなぁ!!」
 わざとらしい大声で笑ってやったあと、すぐに真面目な顔に戻ったら、激昂したバクラもつられて訝しげな顔になった。
 そろそろ遊びは終わりの時間。遊戯は静かに宣言した。
「聞き分けの悪いコにはおしおきだぜ、バクラ…」

 遊戯の赤紫の瞳を向けられた瞬間、バクラの背筋がゾクリと気味の悪さに緊張した。
 相手はただ薄ら笑いを浮かべているだけだが、その瞳から目が離せない。
 遊戯はクッと笑うと、視線を辺りを覗うように逸らした。
 つられて周りを見た瞬間、背筋と言わず、バクラの全身が凍りつく。
 薄暗かった小路には、いつのまにか数段濃度の深い闇が広がっていた。

「…フフ…、恥ずかしがり屋のお前は誰かにこの場面を目撃されるのが嫌なんだろう? 安心しろよ…この空間には誰も入って来れないし、どんなに声を上げても誰にも聞かれる心配はない…。だあれにも、な…」
「…って、テメエ…、ここまでするかよ、フツー…」
「即席ラブホテルだとでも思ってくれれば結構。回るベッドもビデオセットもなくて残念だがな」
 遊戯の悪趣味な冗談は聞こえてはいるが、返事をする余裕はバクラにはない。

 愚かで今更な考えが脳裏に響く。何故とっとと逃げださなかったのだろう。
 痴漢?変質者?それがどうしたというのだ。
 自分は常に、被害者であるより加害者である道を選び、生き抜いて来たはず。
 それがこの体たらくだ。
 自分の本能は、いつのまにかすっかり現代日本常識に蝕まれてしまっていた。

「冗談…きついぜ…」
「フッ、冗談…? 違うだろう?」
「…それがきついんだっての…」
 遊戯は笑みを絶やさないまま、バクラに向かってゆっくりと接近を始める。
 後ろに逃げようとして、すぐに冷たいコンクリートにぶつかった。左右を見まわすが、闇がすぐそこまで迫ってきていて、周到に逃走経路を封じている。
 正面を向きなおると、もう目の前に遊戯がいた。
「…イッ…」
 投げ出されていたバクラの右足に遊戯の手が触れようとしたが、寸前にバクラが引っ込めた為、手持ち無沙汰に手の平は地に着かれ、遊戯の姿勢は四つん這いに近いものになる。
 てっきり悲鳴が吐き出されるかと思った自分の喉からは、しかし何かが喉につかえたような音声しか出なかった。
 口元に刻まれた薄い笑みとは裏腹に、うつむいた前髪から覗く鋭い視線はバクラの自由を射止めて逃さない。
「…く、来るな…」
 搾り出したようなつぶやきはみっともなくも震えていて、バクラはもう何もかもが嫌になってきた。
 このうっとうしい闇も、遊戯も、そして自分自身も。
 闇の中で、化け物のそれのように浮かぶ対の紅い眼。
 それはまんじりともせずバクラをじいっと見据えている。

 ひたり。

 生暖かい手の平に強張った足首を掴まれた瞬間、今度こそバクラは全身全霊で叫びをあげた。


「…そんなに怖いのか?」
 あまりの大音量で叫ばれて、耳をかばいつつ、ややあきれ気味に声をかける。
 残念ながら半狂乱のバクラには聞こえていないようで、遊戯は闇雲に振りまわされる腕を捕えて嘆息する。
 少し脅かしすぎたか?
「やれやれだぜ…」
「ぎゃああ!放せええ!!」
「ちっ…ほらよ」
 バクラの腕をぐいっと横の壁に押し付けると、どんな力を行使したのか、その手はもう接着剤で張り付いたように壁から離れない。
「なッ、畜生…この…!」
 残った片手で引き剥がそうとしても、コンクリートの壁と手が一体化してしまったかのようにビクともしない。
 遊戯は満足げに微笑み、バクラの顎に手を添えた。
「フフ…つーかまえた…」
「う、げ…」
 蒼ざめて冷たくなった頬を嫌な汗が伝う。
 いっそ憐れみすら浮かぶ遊戯の瞳に、バクラは自分の完全敗北を悟らざるを得なかった。

「な、バクラ。オレさ…実はずっと勃ちっぱなしだったんだけど…覚えてた?」
 言われて見れば遊戯のレザーパンツの前は不自然に膨れていて、この状態であれだけ余裕綽綽な態度を保っていられるというのは、よく考えてみると中々に凄いものがあるなと見当違いな思考が浮かんだ。
「噛み切ってやればよかったぜ…」
 ぎりぎりと歯噛みしながら、間近の遊戯をありったけの呪詛をこめて睨みつける。
 ほんの少しの運命のさじ加減で、今自分がこの境遇に置かれたならば、いつかコイツも絶望を味わう時がくるだろうか? 神は概して不平等だから祈らない。
 自分は千年輪に宿りしモノだ。運命の歯車よ、同じ輪のよしみで、情けあるならこのクソッタレに災いを運んで欲しい。
「おいおい、縁起でもないこと言うもんじゃないぜ。あんなに一生懸命咥えといてそりゃあないだろ?」
 バクラの神経を逆なでする言葉を、それと解って遊戯は口に乗せる。
 口付けしようと顔を近づけたら、渾身の力で遊戯の指の束縛を振り払い、顔をほぼ真横に背けられた。
 この調子では、舌など入れようものなら本当に噛み切られかねない。
 残念そうに、朱に染まった頬に軽く唇を落とし、手をバクラの下肢を覆うシャツに伸ばした。
「このっ…!」
「ッ!痛い痛い!おい、バクラ!」
 バクラは自由を残された片手で遊戯の腕に爪を立ててきた。
 慌てて手を引くとくっきりと爪の跡がついてしまっている。これは数日痕が消えないかもしれない。
 相棒に知られたらバツが悪い。遊戯は小さく舌打ちした。
 どこまでも自分に食い下がる気らしいバクラを忌々しげに睨んだら、馬鹿にするように鼻で笑われた。

「…大人しくできねえってなら、それなりの待遇は受けてもらうぜ?」
 今度はバクラの両腕とも闇の呪縛で磔にする。
 もうバクラは無闇に抵抗したりはしなかった。

 降参の意思表示?
 否。
 バクラはいたって冷静だ。
 それは支配者に虐げられた水面下で、反逆の計略を孝策する陰謀家の眼差し。
 頭が敗北を認め、身体の自由を奪われても、感情はそう簡単にそれを受け入れはしない。
 ここまで来てしまったら、遊戯の餌食になるのは避けられないが、ならばせめて、どこかに彼を奈落に突き落とす機会がありはしないだろうか。
 バクラは身を守ることはもうあきらめ、遊戯への意趣返しの計略だけをただただ考えていた。

「…泣かせてやるぜ」
「ヒャハ! テメェこそなァ」
「ほざけ」
 ぎらぎらと鋭く光る、殺意すら感じさせる双眸を細め、遊戯はバクラの下腹部を遮る布地に触れる。
 しかし、てっきりそれを剥ぎ取ると思われた手は、むしろ丁寧にシャツを腰に巻きつけていった。
「…脱がさねえの?」
 本格的に巻きスカートの体を成したシャツを見下ろし、バクラが訊ねたら、遊戯はすっと顔を上げた。
「おかしなことを聞くんだな。脱ぎたくないんだろ?」
「まあ…そりゃな」
「フッ、こうしておけば、まるで女の子とヤってるみたいだしな。…それに、オレは前には用はないんでね」
「…ゲス」
 軽蔑を込めて吐き捨て、バクラはそっぽを向いてしまう。
 遊戯は、ニヤリ、とそれはそれは不穏な笑みを浮かべたが、バクラには見えなかっただろう。
 身長の割に軽い身体を抱え上げ、遊びやすい体勢に固定する。
 さらけ出された首筋に唇を寄せたら、小さく身じろいだが、特に抵抗は無かったので遠慮なく吸いついて軽く噛み付いてやる。
「…っ」
 気道がビクリと上下する。
 変な意地でも張っているのか、必死で声を飲み込んでいるバクラの半開きの唇からは細く掠れた呼吸音しか出ては来ない。
 別にそれならそれで構わないと遊戯は思う。
 むしろ、どう啼かせてやろうかと試行錯誤をめぐらすことにこそ、自分の苛虐気質は満足感を得るのだから。

「噛むなよ」
 一旦喉笛から唇を離し、断続的に吐息の零れる口に指を差し入れる。
 反抗の意志を見せ閉じようとする口にニ本目を指し込みこじ開けると、開かされた唇の隙間から、くぐもった呻き声と生温い唾液が零れた。
 未だ気持ちの悪い舌の感触が残る白い首を飲み込めなかった滴が伝い、息苦しさに身を捩るが、遊戯の指はしつこく口内を這い回る。
 口腔の奥まで突き入れられた時、一瞬意識が遠のき、すぐさま異物感に吐き気が込み上げてきた。
「…っう、え…ェ…」
 頭の奥が鼓動のリズムで痛む。目頭が熱くなるのを感じて、無意識にぎゅっと眼を閉じた。
「…泣きそうか?」
 苦しげに歪んだバクラの紅潮した顔を覗きこみ、震える舌をなでた後、ゆっくりと指を引き抜く。
 途端に力を失ったバクラの頭はガクリと崩れ、ただひたすらに激しく嘔吐き続けた。
 彼の呼吸が整うのを待たず、濡れそぼった指先を背中に回し、背骨を辿って下方へと這わせる。
「…ま、待て…っ!この、アッ!」
「待てねえな」
 必死の色を湛えた制止の声を速攻で却下し、降ろした指を迷わず閉ざされた入口に滑らせると、声も無く薄い身体が仰け反った。
 堅く侵入を拒むそこを突破する為に、細やかな動作で指を撫で付けながら、もう片方の手でTシャツの下の素肌に触れる。
「……」
 遊戯の冷たい指が、バクラの左胸に当てられた。
 指先で突起の反応を試しながら、手の平で心臓の動きを追う。
 奥歯を噛み締めて、どうにか声は堪えても、高まる動悸だけはどうしようもない。
 乳首を摘み上げると同時に、濡れて大分柔らかくなった窪みに指を一本捩じ込んだ。
「…いっ!」
 唾液で濡らした指であったが、狭くて第一関節まで指し込むのがやっとだ。
 バクラは瞼を堅く閉じ、遊戯の蹂躙をただ受け止めている。
 指を蠢かすと、耐えきれないのか口が開閉されたが、悲鳴は上がりそうで中々上がらない。
 何のプライドがあるのか知らないが、この意地がどこまで続くか試してみたい欲望に駆られた。

「な…、声出せよ」
 耳元に口を寄せ、息を吹き込むように低い声で囁く。
 バクラは目をぎゅっと閉じて首を横にふった。
 汗ばんだ頬や唇に触れるだけの口付けを繰り返していたら、色素の無い長い睫毛が揺れて、潤んだ瞳が覗く。あと少し苛めてやれば泣くかと考えつつ、遊戯は瞼にも唇を落とす。逃げるように閉じられた瞼をそっと舐め上げると、バクラが息を飲むのが伝わった。
「折角可愛い声してるんだしさ、…女みたいな…」
「…っ、黙れ…」
「黙ってたらつまらないだろ? …ホラ、何か言えよ…」
 言いながら、体内に押し入れた指で内壁を引っかく。
「…く、アッ!」
 慣れない孔は、指一本だけなのにきつく締め付けられて指先が痛いくらいだ。もっとも、本人の苦しみはそれどころではないだろうが。
 その反応に苦笑いを浮かべつつ、からかうようにぐりぐりと動かしていたら、バクラは身体を震わせながらも顔を上げ、濡れた眼で睨み付けてきた。
 精神力が費えるぎりぎりの狭間で強固に耐え続けるバクラの意志の強さには、正直遊戯も驚きを隠せない。
「意地っ張り」
「…うあ!」
 躊躇い無くニ本目の指を奥まで捩じ込んだら、小さく開いたままの口唇から、短くて高い悲鳴が上がった。
 遊戯の顔に情欲に染まった笑みが浮かぶ。彼としても、疼く下肢がそろそろケリをつけたいと訴えてくるので、内部を慣らそうと、ゆっくりとではあったが、出来る限りの早さで内部を押し広げていった。
「ゆッ、遊戯…! ぐぅ…、痛…っ!」
「我慢してくれ…」
「が、がまん…って、…イッ!てめ…!」

 内臓をぐちゃぐちゃにされるような痛みに、とうとう殺しきれなくなった悲鳴が、罵声を交えて吐き出される。
 一度堰が切れてしまうともう止まらない。バクラは自由の効かない身体で藻掻くが、両手が捕われている上に、体内で指が動くたびに思考が点滅して、遊戯の侵略を止めることなど到底出来はしない。
 しかも、幾度も指の抜き差しを繰り返されるうちに、内部の性感が確かに刺激されて、絶え間無く上がる呻きに近い悲鳴が高く上擦るのすら、バクラには止めようになかった。

「…ふうん、この辺…好き?」
 バクラの声の変化を遊戯は逃さず、一番きつく締め付けてくる入口付近をニ本の指で押し広げる。
 ギリと唇を噛み、どうにかやり過ごそうとする様を笑って見つめ、奥底まで付き入れぐるりと掻き回すと、開かされた両足がビクビクと硬直した。
 それでもバクラは遊戯に屈する言葉だけは挙げない。
「……最低っ」
「…本当か?」
「テメェがだ…、っふ」
 強がりを搾り出す濡れた口に食らいついて柔らかい舌を絡めとる。
 それでも指は動かし続け、意味も無く暴れる身体を征服していく。
 頭はガンガンするは、下半身はズキズキ痛むはで、ともすれば精神も肉体も崩壊してしまいそうだ。
 噛みつくような口付けに意識が途切れそうになるが、どうにか正気だけは手放すまいと、遊戯の舌に自ら吸いついて引っ張り出した。
「…イッ!」
 そのまま噛みついてやったら、慌てて遊戯が唇を離した。
 浮かされて、ろくに力が入らない状態で噛まれたのが幸いだったが、それでも少し切れたのか微かに血の味が口内に広がる。
「…余計なこと、するから…だ、バーカ…」
 震える口をどうにか笑みの形に形成し、してやったりと遊戯を見やる。
 遊戯は無表情で自らの唇を舐めあげると、奥まで指し込んだ指で柔らかい内壁に爪を立てつつ一気に引き抜いた。
 バクラが痛みに顔をしかめたが、構う気は無い。
 そのまま間髪置かずに彼の身体を壁からはがし、仰向けに押し倒して馬乗りになると、両手を今度は地面に押し付けた。
 この場面にそぐわない笑顔を浮かべ、組み敷いた相手を覗き込む。

「そうかそうか、余計だったか、そいつは悪かったなぁ」
「…王サマ…目ェ笑ってねえよ…」
「ははは、これが笑わずにいられるかっての。‥‥入れるぜ」
「嫌。」
「返事なんて聞いてねえよ。…今のは勧告じゃなくて宣告だ」
 バクラの次の言葉は待たずに(どうせ無駄な否定だ)、両足を抱えあげ、散々焦らされて猛る憤りを込めて力任せに貫いた。
「――――!!」
 強すぎる衝撃に、その瞬間意識が消えた。開きっぱなしの口からは悲鳴すら上がらない。
 一度に全部を押し込むにはきつすぎて、遊戯は顔をしかめながらも徐々に挿入を深くしていく。
「ひ、あっ!!」
 しばし飛んでいた意識が戻った途端、身体を引き裂かれる程の痛みを知覚し、バクラは甲高い悲痛な叫びをあげて身体を捩った。
 どうしようもなくて目茶目茶に泣き喚きたいのに、呼吸も満足に出来ず、気持ちの悪い吐き気に邪魔されて悲鳴を上げるのもつらい。

 苦痛に跳ねる身体をなだめるように、汗で濡れて艶を帯びた前髪をかきあげてやると、焦点の定まらない瞳から涙が零れ落ちた。
「……泣くのか…、お前でも…」
 泣かせてやると宣言したのは確かなのだが、大きな両目からとめどなく溢れる涙に、柄にも無く困惑する。
 潤んだ瞳は、バクラが息を継ぐたびに揺れて、角度によって青紫にも紅にも見えた。
 桃色がかった、淡い紫。
 遊戯は今初めてバクラの瞳を悪意でなく見つめていた。

「…続き、まだあるぜ?」
「はっ…、止め…ろっ!イッ!」
 表面上は同情する素振りは見せずに、しかし付き上げる動きを少し緩やかにしてやった。
 それでも、激しい痛みに苛まれているバクラにとってあまりかわりはないらしく、力無い喘ぎ声を上げるのがやっとのようだ。
 どうにか根元まで収め、深く息を吐くと、異物を埋め込まれた下腹部がビクビクと痙攣した。
「…入ったぜ」
「っあ、この…っ、抜けぇ!」
「入れたばっかりだろ…」
 腰を抱え上げ、無慈悲に突き動かしたら、涙を飲みこむように喘ぎが詰まった。
 見れば両の手の平は血が止まるほどの力で握り締められていて、流石に哀れになって両手の束縛を解いて、自らの背中に回させてやる。
「ほら…力抜きな」
「っつ、痛ぇ…、ふ…ぐっ」

 今のままでは、バクラも苦しいだろうが、自分もきつくてロクに動けない。
 ひたすら締め付けてくる内部をどうにか解きほぐそうと、収めたものは動かさずに、前に手を伸ばした。
 萎えたままのそのものに指を絡め、揉むような動きで快感を植付けていく。
「…うあ!…んっ、ゆ、遊戯っ!」
 痛みとは違った感覚を与えられ、遊戯の肩にひっかかっていたバクラの手が反射的にしがみついてきた。
 無理矢理押し広げられた箇所は絶え間無く軋んだ痛みを訴えてくるが、なんとか遣り過ごそうと、遊戯の愛撫の動きに意識を懸命に集中する。
「あ、んっ!はっ…は…」
 バクラの反応に満足を覚え、遊戯は疼きの止まない自身を再び突き動かす。
 ぎちぎちに締まっていた力がふいに弛んで伸縮を始め、内壁が遊戯に絡みついた。
「っく…。…動かすぜ。ゆっくり息を吐いてろよ…」
「やめ…!っぐ、く、アッ!だ、駄目…」
「駄目?…何が?」
「イッ!う、動くなっ!ん…!」

 内部を擦り上げる急激な摩擦に耐え切れず、バクラは必死に遊戯の肩にすがりついて喘ぎを飲み込む。
 それでも先程までの死にそうな苦痛は消え、今は脈動の早さで疼く下半身がバクラの精神を侵食しようとしていた。
 何度も内をかき回されて、遊戯の背に回した手に知らず力がこもる。
 ある程度行為に慣れてきたのか、不確かながらも思考機能が少しづつ回復してきた。
 間断無く喘ぎを洩らしながら、真っ先に浮かんだ感情は屈辱感。
 歯噛みしつつ、今度は明確な意志を持って遊戯の背に爪を立てた。
「っ!」
 間近にあった顔が背に走った痛みに眉をしかめる。手を外されそうになったので、離してなるものかとぎりぎりと爪を食い込ませた。
「いっ!痛ぇ――っ!おい!バクラっ!」
 突き動かされて力の抜けた一瞬に引き剥がされ、バクラは荒い息を付きつつ地面に横たわった。
 腰を揺すられるたびに縋るものの無くなった身体が跳ね、犯されている部分が蠢くのに耐えながら、少しでも気を抜いてしまえば止まらないであろう嬌声を押し殺し、どうにか言葉を紡ぐ。
「ほざけ…っ、オレ様の方が痛えんだよ…。我慢だろ、我慢っ…」
「…嫌味かソレは?」
「そう聞こえるなら、そう…なんじゃねえ?」
 遊戯はやれやれと呻きながら、ひりひり痛む背中に触れてみる。生温い感触に嫌な予感がし手を見れば、案の定、少量ではあったが赤い血液。
「チッ…。爪切っておけよ」
「…文句なら宿主に言ってくれ…。勝手に爪切ると、すっげえ怒るんでなー…」
 宿主の獏良を引き合いに出されては、遊戯に返す言葉は無い。
 仕方なく手の平についた血を舐めとる。
 生臭い鉄の味に、自分こそどう相棒に言い訳しようかと悩みが浮かんだ。
「相棒の身体に傷が残っちまったらどうしてくれるんだよ…」
「あん…?傷だぁ?…あぁ、遊戯には災難だったかもな…。何なら今度謝っといてやってもいいぜ? お前ンとこの相棒さんに犯されたときにあんまり痛くてつい爪立てちまいましたー、ごめんねって」
「……頼むからやめてくれ」
 少し動きの止まった隙に、バクラの口からはポンポンと皮肉ばかりが飛び出す。
 つい先程まで身も世も無い泣き声を上げていたとはとても思えない様に、遊戯は小さくため息をついた。
 他人の身体に入り込むのはバクラのキャパシティのひとつではあるが、だからといって、身体に侵入されたこの状態における適応力の早さもアイテムの効力とでもいうのだろうか。
 ざまあみやがれと言わんばかりに笑みを浮かべているのが視界に映り、遊戯は頭に血が昇っていくのを感じた。
 無言のままバクラの背に手を回し、抱き寄せるように引き上げて、自分はそのまま横になる。
「…いっ!このっ…あ!」
 急な体勢変更に思わず声があがり、真下から突き上げられて華奢な背筋が引き攣った。
 グラグラと揺さぶられて、せっかく復帰した思考が崩される。
 逃げようにもすっかり腰は抜けていて、立ち上がることなどできそうにない。
 自分の体重が遊戯を奥深くまで飲み込む圧力に、顔を歪めてかぶりを振った。
「だッ!やめっ!やめろ…バカ!っんう…っ」
「誰が馬鹿だって…?」
「ちょ、ちょっと…待てっ!あ、あっ!」
 意地悪く一旦バクラの腰を浮かせてから手を離すと、重力にしたがって、濡れた音を立てながら奥底まで遊戯が食い込む。
 無理な荒技に、浮ついた悲鳴が洩れ、上体がガクリと沈む。
「おいおい、寝るにはまだ早いだろ…?」
「いっ、いやだッ…って、ぐっ!ひあっ…ア!」
 遊戯は腰の動きは止めることなく、固く勃ち上がっていたものを握り込んだ。
 バクラの手が遊戯の腕を制しようとしてきたが、突き上げられると途端に力が抜けてしまう。
「あとちょっと、頑張りな…。もう終わらせてやる…」
 ぬめった先端に軽く刺激を与えつつ、本能の求めるままに突き上げる動きを速めていく。
 堪えきれない嬌声と共に零れ落ちた唾液が、遊戯の胸に滴った。
 バクラは愉悦に潤みきった眼で、それでも遊戯を睨み付けた。
「…っお、終わりだと…っく、バカめ…っ!これがテメェの地獄のっ、っは…始まりだ…っ!」
 そろそろ自分の限界も近づいてきたので、早めにバクラの方もケリを付けてやろうかと思っていたら、いきなり訳のわからない罵声を投げ付けられた。
「何だ? 負け犬の遠吠えモード?」
 確かにこの状況では、バクラができることといったら、せいぜい虚勢をはるくらいだろうが、あまりにベタな文句にやや遊戯はあきれ気味だ。これでバクラが覚えてやがれとでも言おうものならきっと自分は吹き出すだろう。
 握り込んだバクラのものは、もう絶頂寸前で、いま少し力を加えればすぐさま達してしまいそうなのに、そんな状態でもバクラは喚き続ける気らしい。
 どこまで吼えることができるか少し気になった。

 のたうちながら、泣いて笑って。
 快楽と苦痛の織り成す一時的狂気のままに、バクラは遊戯を呪う言葉を止めない。
「いっ!イ、ハハっ!ほざきやがれ!って…テメェの地獄が目に見えるぜ!ヒャハ…ハハハ、ハ、ハは、アッ…う…あ、は…ああっ!!」

 喚くだけ喚いて、しまいには笑っているのか喘いでいるのか判断しかねる声を上げつつ、とうとう遊戯の手の中に白い混濁液を吐き出し果てる。
 息も絶え絶えに崩れ落ちる身体を支えようとしたが、その瞬間凄まじく締め付けられて、身を震わせながら遊戯もバクラの身体の奥に大量の精液を解き放った。
「……」
 ぐったりとした身体を抱き上げて、言葉も無く笑いかけたら、情けなく気を遠くしていたバクラが薄く目を開けた。
「……コロス」
 耳を澄ましても聞こえない音量でたった一言つぶやいて、すぐに眼を閉じ、か細く息を吐きながら遊戯の肩に頭を預ける。
 遊戯はバクラの体内から抜かないままで、ふせられたバクラの頭を抱きしめ髪の毛を撫でた。
 恋人に向けるような酷く甘ったるい目をして。
 寄せた耳元に否と囁き、本人の意志を無視して未だきつく絡みついて離さない粘膜を擦り上げる。
 バクラが小さく抗議してきたのが耳に入ったが、聞こえないふりを決め込んで突き上げたら、一回鳴いて仰け反った。
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