【嘆くなり我が夜の幻想】 YU-GI-OH×BAKURA |
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<Chapter 2 劇薬のミルフィーユをほおばる君が> 人気のまったくない、雑居ビルの裏手。 そこに詰まれたダンボールの箱に、バクラは膝を抱えるように座り込んでいた。 なるべく足音を立てないように近寄ったが、あと数歩というところで顔は伏せたまま、目線だけで威嚇される。 例えば、誰にも手を差し伸べられずに野生化してしまった捨て猫はこんな感じだろうか。バクラの獣じみた反応に、遊戯はそんな感想を抱いた。 「……座るぜ?」 攻撃射程範囲に立ち入った途端ひっかかれては困るので、念の為宣言をしてから一歩踏み出す。 バクラの目が興味なさげに反らされた。どうやらOKらしい。 隣に並ぶように腰を降ろしたら、新たな荷重に数センチほど箱がへこんで、バクラの体がぐらりと揺らいだ。しかし、遊戯の肩に体が接触する寸前に、するりと体制を立て直し、何事も無かったかのように元の姿勢に戻る。感心しつつ、動きのしなやかさにやはり獣だと遊戯は再度感じた。 古着がつめこまれたダンボールは、意外とクッション性がよく座り心地も悪くない。 猫背気味にうつむいている為、自分の目線より下に位置しているバクラの頭を見下ろす。暴れたり走ったりしたせいか、元々まとまりの悪い髪の毛はバサバサに乱れていた。 「…なあ…」 「……あ?」 声を掛けたら、しばしの沈黙の末、顔も上げずに一文字で返事を寄越してきた。 できれば顔を上げて欲しかったが、無理強いするわけにもいかないので、そのままで話を続けることにする。 「あのさ、今度は叫び出さないで聞いてくれよな? ……つまりさ、オレとお前と……城之内君、の関連ってやつ? ソレが、悪いんだけど、どうにも見つからない」 「………」 やはり今度も、城之内の名を出した時に少しだけ反応したが、それ以外は全く聞こえていなかったかのように無視される。表情は見えないが、先刻のそれのようにキレる手前の静けさというわけではなさそうだ。 遊戯はしばらく返答を待ってみたが、おずおずと投げた質疑の投球は地面に落ちたまま拾われすらしない。このまま放って帰るのも気が引けるので、めげずに再度投げかけてみる。 「………言いたくないのか?」 「…………聞きてえのか?」 再度投じた球は、相手の手中には収まったようだ。これ以上追求しないほうが身の為な気もしたが、聞きたくないといえば嘘になる。 ちらりと見上げてきたバクラの視界に自分が入っていることを確認し、こくりとうなずいてみる。 ようやくのろのろと顔をあげたバクラは、心の底から忌々しそうな表情を浮かべていたが、冷静に解説するだけの理性は持ち得ているようだ。忌々しい記憶を反芻しているのか、盛大に眉をしかめて口を開いた。 「……ある日、オレ様の家で、アイツとかオマエとか、いつもつるんでるメンバーで集まって、酒盛りをしておりました…」 「……先週、くらいのことか?」 「…………。…飲兵衛のアイツは、ぐでんぐでんに酔っ払い、みっともなくもオレ様ん家でぶっ倒れ、他の連中は酔っ払いをオレ様に押し付け、とっとと帰っちまいました」 「………すまん…」 「…いや、テメエが謝る局面はもうちょい先だ。大人しく聞いてろよ」 「ああ…」 「…んで、そのまま朝まで寝こけるかと思われた奴ですがー、ふらりと目を醒まし、友人の獏良くんをあろうことかベッドに押し倒してしまいましたーー…」 「……………」 「哀れ獏良君は、暴漢にムシャムシャ美味しく食われちまいましたとさーー…、終わり」 「……………………」 ぱーー、と両手を無邪気な幼児がするように空に向け、口調だけは他人のようにあっけらかんと締め括ると、隣ですっかりうつむいてしまった遊戯に、にんまりとした、しかしちっとも嬉しくも楽しくもなさそうな微笑を浮かべ、一人ぱちぱちと小噺の終幕に拍手を送る。 「…まだ聴くか?」 「……いや、もういい…」 うんざり、という言葉がこれほど似合う状況が他に見当たらないほどうつむいて、暗く沈んだ声で遊戯はかろうじて答えた。 一方バクラは、遊戯がうつむいていくのと反比例し、いつのまにか仰け反り気味に遊戯を見下ろす程浮上していた。天秤にかけられた双の皿が、片方が下がればもう一方が上がるように、遊戯が憂鬱になるほどバクラの機嫌は上昇するようだ。 「そうだよな〜。オレ様だって話したくねえよ。…でもな、これだけじゃ、テメエがどこで謝らなくちゃならねえのかわかんねーだろ?」 遊戯の言葉にわざとらしくうんうんと頷きつつ、学者ぶって組んだ両手はそのままに、人差し指だけをピンと立て、遊戯の視線を自分に向けさせた。 「…まだ続くのか?」 「いや、事実報告は以上で終了。…それじゃあな、以上を踏まえて、ここでテメエにひとつ問題を出す」 「……?」 「本文中の”獏良”を”遊戯”に置き換えて想定した場合、テメエがその時取りうる行動を述べよ。ああ、勿論この場合の遊戯はテメエじゃなくてテメエの可愛い相棒な。チェンジはどのフェイズでも可。敵は感覚麻痺中の猛犬、腕力はすこぶる強力、だ」 無理難題。 その四文字熟語がまさにぴったりな出題に、遊戯は顔をしかめる。 相棒はこの上なく大事な存在だし、城之内君も大切な親友だ。城之内君が酔いにまかせて相棒を襲う?あまりといえばあまりなシチュエイションじゃないか。 「………最悪だな。救いはないのか?」 「無いね。登場人物は二人きり。舞台は狭いオレの部屋」 「…せめて制限時間でも設けて欲しいもんだぜ」 「そいつはあるぜ? 馬鹿犬の酔いが覚めるまで、もしくはテメエの意識が切れるまで。OK?」 微塵の間も置かずにぴしゃりと救済を拒絶されたので、額に手を当て、しばし思考に意識を傾けてみる。 おそらく、というより確実に、今の話は隣の人物の体験談なのだろう。 そういえば、相棒が「ここ数日城之内君が元気ないんだよね、悩みでも有るみたいでさ…。話しかけてもため息ばっかりなんだ。」とかなんとか言っていた気がする…。 しかし待てよ? 今のヤツの話だとむしろ獏良くんの方が落ちこむべきじゃないのか?(べき、というのもおかしいが) でも、獏良君はいつもとかわらずにのほほんニコニコとしてた気がするし…。 間違いとやらが城之内君と獏良君の間にあったにしては、二人の態度が釣り合わない。 城之内君の憂鬱の理由は、たぶん「酔いにまかせて友達を襲った」ことへの後悔なのだろう。 だが、では獏良君の能天気は「そんなの犬にかまれたくらいにしか思っていない」からなのか? じゃあ、コイツが城之内君を恨んでいるのはそれが理由なのだろうか。 そして、オレがコイツに糾弾される所以は何処にあるというのだ? 「おい、いつまで考え込んでんだよ? いいかげん回答しろよなァ」 推測の袋小路に沈んでいたら、ふいに声をかけられ現実の裏路地に意識を戻された。 となりでバクラが待ちくたびれたような顔で自分を覗きこんでいる。 「答え出たか?」 「答え…?」 「あァ? テメェ何だよ、延々と余所事考えてた訳? うっわ、信じらんねえ」 「ああ、すまん、忘れてた…」 言うと、バクラはブーと不機嫌そうに唇をゆがめた。 慌てて返答を考えてみる。出題はどんなだったか…? 「ええと、相棒がピンチなんだよな? そんで相手が城之内君…、うわ、改めて洒落にならないぜ…」 「洒落で返したらキレるぜオレ様は。オラ、キリキリ思考しやがれ」 「う〜〜…、そりゃ、やっぱマインドチェンジして城之内君の酔いを覚まさせる…だろうな…」 「だよな、やっぱ。居候の宿命だもんな」 どうやら御望みの返答を提示できたらしい。バクラがにっこり微笑んだ。 …不気味以外の何ものでもなかったが。 「‥‥で、この最悪の出題の意図はなんなんだよ?」 「ふうん。テメエが言うか、最悪?テメェが見ても最悪なんだ?この状況」 「…やけにうれしそうだな」 「ああ嬉しい、本当に嬉しい。テメエが最悪だと思うならオレ様に土下座して謝る道理が成り立つからなァ?」 満面の微笑み、というヤツを顔に浮かべて。 なのに、笑みを浮かべる意思は、その可愛い顔の本来の持ち主ではなくて。 出題の意図。 城之内君と、獏良君と、コイツ。 そこまで考えて、いつもはずっと洞察に優れた頭脳に、だいぶ遅れてパズルの全体像がふいに浮かびあがった。 はっとして、バクラのほうを向く。 相変わらずにっこにこと、鼻歌でも歌い出しそうな上機嫌で、しかし笑顔の下から漂うのは、あまりにもはっきりした怒りと怨讐のオーラ。 居候の宿命か…。 それ以上バクラの方を見ていると、瘴気に侵食される気がして、遊戯は顔をそらし大きく息を吐き出した。 「同情、はするぜ…」 「謝罪は?」 「因果関係がまだわからない」 「知りたいか?」 「…できることなら知りたくないね」 「じゃあできるかぎり教えてやるぜ。とくと聴けよ、馬鹿犬が口走った名台詞の暗唱だ。…『あん時はちょっと強引だったけど今ではすっかり両思いになれたんだから時には強引さも必要だぜーーー』……ワー、オメデトーー。ところで一体誰のことなんでしょおねえ?両思い?ちょっと強引??時には???」 にこにこにこ。 今になって遊戯は、体中に走る怖気に心臓が縮こまるような感覚を覚えた。 バクラが激昂して怒り狂う分には、少なくとも恐怖は感じない。 恐れるべきは、この…感情から切り離された仮面のような笑顔だ。 「…………ゴメンナサイ」 「もう一回言ってみろ」 「…ごめん…」 この状況、この相手では、素直に謝っておくしかない。 まさかこんな局面で自分の台詞が引用されようとは。 少し前、城之内君に「なあ、遊戯…好きな奴いるか?」という、おきまりの文句で持ちかけられた恋の悩み。 そのときは城之内君は相手の名前は出してくれなかったから、てっきりどこかの女の子だと思って聞いていたのだが、まさか獏良君が相手だったとは…。 遊戯はどうやって海馬をものにしたんだ、と聞かれ答えた内容だった気がする。 無責任ながら、今の今まですっかり忘れていた。 バクラはダンボール箱から立ちあがると、斜め下をじっと見つめた姿勢で固まっている遊戯の正面に周る。 逸らしていた視線をバクラに向けると、笑顔がいつのまにかニコニコからニヤニヤに変わっていた。 おかしな話だが、ストレートに兇悪な見なれた表情だったので、遊戯の肩の力がほんの少し軽くなった。 「なあ、王サマよォ?2回も謝ってくれて悪ィんだけどさ、オレ様それっぽちでテメエを許す気はぜえんぜんねーのよ。テメェの腐れた口車に乗った城之内のヤローのせいで、オレ様の宿主が傷物になっちまった訳。解る?」 「……すまない」 「別に謝んなくていいぜ。何度言っても無駄だからな」 あれだけ謝れと言っておきながら、いざ謝ってみればこの言われようだ。 口は災いの元という格言を、遊戯は嫌というほど思い知った。自分の漏らした一言が、よもやまさか巡りめぐって自分に強烈な厄災として返ってくるとは…。 人生万事塞翁が馬、それならば、一刻でも早くこの身に平穏が訪れることを遊戯は切に願った。 「ところで王サマはよ、こんなん知ってるか? 目には目を…」 「…歯には歯を、か?」 「オウ、それそれ。オレらが生まれるより前に、どっかの王様が神様から聞いたとかいうありがたーい由緒有る法律だぜ。いいこと言うじゃねえか?そこの神様もよ?」 アラブのテロリストあたりが好みそうな物騒極まる理論の引用に、なんとなく遊戯はバクラの次の台詞の予想がついた。 コイツはきっと言うに違いない。 だから城之内を同じ目にあわせてやる、と。 遊戯は初めてバクラの顔を正面から見据えた。 「バクラ。オレが言っていい台詞じゃないかもしれない。けれど、これだけは言わせてもらうぜ。城之内君に手を出すのは許さない」 いつに無く強い口調に、バクラは一瞬だけ鼻白んだような顔をしたが、すぐに人を小馬鹿にしたものに戻る。くつくつと笑い声を漏らしながら、剣呑さがさらに増した両眼で、遊戯の視線を真っ向から受けてたった。 「許さねえだぁ? …ああ、確かにテメエだけは言っちゃいけねえ台詞だよなぁー。この世界でただひとり、テメエだけはな。でもやっぱお仕置きは必要じゃねえの? だってヤツは立派な犯罪者なんだぜ? 強姦ってやっぱ重罪だろ」 「それは…そうだが…」 「もし城之内に押し倒された時点でオレ様が表の獏良と交代せずにだぜ? まともに宿主が城之内にコマされたとして。テメェは今と同じ台詞を宿主に向かって言うのか?」 「………」 「言わねえだろ。やっぱ言えねえだろ。正義の王様が言っていい台詞じゃねえだろう?」 すでにどちらの表情からも笑みは消えて、ただ悪意と害意に満ちた視線が交錯する。 被害者の強みと加害者の弱み。 バクラの怨恨を糾弾するには、自分はあまりに当事者でありすぎた。 遊戯は肩身の狭い思いで、バクラの次の弾劾を待った。 「…ま、オレ様も初めは城之内に直接意趣返ししてやろうかと思ってたんだけどさ、あいつもテメエの口車に乗せられて酒の勢いで理性ふっとんじまっただけだしな。…宿主も知らねえことだし…まあ、許してやってもいいとは思ってるぜ」 覚悟していた親友への断罪は意外とあっさり免責の運びに向かい、遊戯の目にほっとしたような光りが浮かぶ。 しかし、その安堵の瞬間を見計らっていたかのように、いや、実際観察していたのだろう。バクラは遊戯の安堵を打ち崩す言葉を続けた。 「でもな、お前、は、許せねえンだよな? アイツにハメられてるときもよ、オレサマてめえのことばーっかり考えてたんだぜェ? 光栄だろ?」 「…そいつはどうも…これっぽちも嬉しくないけどな」 うっとりと語られる思いがけない告白に、しかしコイツの自分に対する想いとやらが好意のはずも無くて。 「なあ、遊戯…城之内の代わりに責任とってくれよ。悪ィ相談じゃねえだろ、諸悪の根源サマ?」 「嫁にもらえとでもいうわけか…?」 「あァ? 誰が大事な宿主をてめえなんぞにくれてやるかよ。大体宿主が嫁入りしたらオレサマ嫁入り道具としてしっかりついて行ってやるからな。小姑付きの新婚生活はツライぜぇ?」 花嫁の父兄のような口ぶりに、あらためて遊戯はバクラの宿主への執着を思い知る。 さしずめ今の状況は、一人娘が強姦されかけたところへ助けに入り、逆にハメられたといったところなのだろう。 不条理な想像に利用された遊戯の脳味噌は、はっきりとした頭痛を訴えた。 「ま、そんな訳だ。目には目を、歯には歯を、カラダにはカラダを。おとなしくオレサマに食われちまいなさい」 「…ち、ちょっと待てえええ!!」 「問答無用!!!」 がばっと、擬態語が付きそうな勢いでバクラは腰掛けていた遊戯をダンボールに押し付ける。 互いに掴み合った拳を利き腕だけはねじ伏せて、遊戯の上にのし上がった。 自分の十八番であるはずの強引な先制攻撃を逆にしかけられ、流石の遊戯もぎょっとして硬直する。なんとかバクラの利き腕で無いほうの腕はは掴み上げられたが、下敷きになっているぶん分が悪い。 押し倒すのは好きだが押し倒されるのは嫌いなんだあ、と、どこぞのスケコマシのようなことを思った。 だが、バクラはのし上がったままの姿勢で、これ以上手出ししてくる気配はない。 遊戯に馬乗りになった姿勢のまま、じいっと彼を見つめていたが、ふいに視線をそらし、大きく息を吐く。 「どうした…?」 掴み合った手の平からも力が抜けていて、たやすく外す事ができた。訝しげにバクラを見上げると、自分を見つめる視線に気が付いたのか、こっちを向く。 しかし、またすぐにそっぽを向き、憂鬱そうにため息をつきながら口を開いた。 「…なあ、ひとつ聞かせてくれ」 「ああ…?」 言うのに躊躇うことなのか、遊戯の体に乗ったまま、バクラは口を開きかけては閉じるという動作を何度か繰り返す。やがて意を決したのか、遊戯のほうを向き直る。…ほんの少しだが、顔が赤い。 「……なんでさァ、てめーら男相手に勃つ訳?」 「………ハイ?」 言ってすぐバクラは横を向いてしまったため、遊戯のあっけにとられたみっともない表情は幸い見られずにすんだ。間抜けに裏返った声は聞かれてしまっただろうが。 「…あの、バクラ? つまり何…、」 「ガアーー!!!うるせえホモ!なんで!?なんで男なんか犯そうって気になる訳!? …千歩譲って好きになるってとこまではなんとなくわかんねえこともねーけど…イヤ…あーー、やっっぱわっかんねェ…」 答えようとした矢先にやかましいといわれては遊戯も困る。 バクラを見れば、白い頬は淡く血の色に染まり、乱暴にガシガシと髪を掻き乱している。 「…それなんだよ、問題はよォ。いざ城之内にリベンジしてやろうとか思っててもさー、奴のシケたツラ見た途端、すーっとやる気が萎えちまうんだよなァ…。だってあの野郎、宿主見た途端露骨に態度が硬直するんだぜえ? 話しかける隙もねえよ…」 明後日の方向を向いて、赤い頬してブツブツ言っているバクラ。 それを見ているうちに、遊戯の中の彼への警戒心や猜疑心といったものが、少しずつ氷解していく。 同時に、今まで彼に対して抱き得なかった感情が呼び覚まされる。 …つまり、先程のバクラの質問に対する返答に成り得る感情が。 考える間もなく、遊戯の右手は頭を抱えていない方のバクラの腕に回る。 突然の行動にびっくりしたのか、余所を向いていたバクラの体がビクリと跳ねた。直接体を接していたため、衝撃はダイレクトに遊戯に伝わり、過敏な反応に遊戯は満足感を覚えた。 急な驚きに見開かれた瞳に映った遊戯の表情、それを見とめたバクラの心臓が早鐘で警告を告げる。 遊戯はバクラを腿の上にのせたまま、上半身を起こす。反動で後ろに傾いたバクラの脇に手を回した。その背に回された手は、支える為であり…逃さぬ為でもある。 気に食わないツラにいつしか浮かんでいた、余裕ぶった自信家の表情。どうしようもなく対応の遅れたバクラの直感はそれを危険と判断した。 遊戯は実に自然な動作で、バクラの顔に自らのそれを寄せ、固まったままの彼に囁く様に話しかける。 まさかコイツ相手に言う事になろうとは、数分前まで神さえ予想できなかった言葉を。 …目には目を。歯には歯を。 「な、バクラ…、オレで試してみるか?…先刻の答」 |
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